胃ろうの造設

胃ろうの造設

                                

                                ALS患者 長尾義明

このままで治まれば、「正月には家に帰れるかな」と言っていたが、安定剤をおしりから入れようとした矢先に全身に痙攣が起こり呼吸停止し、人工呼吸器を装着した。後は点滴のみの生活だった。空腹は点滴だけでは満たされず、毎日の空腹に絶えきれずに、胃ろう造設を希望したので平成6年1月6日に胃ろうを造設した。胃ろうがどんなものか知らないが、ここまで来たらどうにでもしてくれ、高いところから落ちて死ぬよりましだ、との思いから空腹が満たされると言うことだけで飛びついた。オペ室に入ったら腹の上にグリーンのビニールシートを置き「ここかな」と印を付けて、ビニールは印を中心に十字に切った。「間違えるなよ」と心中で思っていたがオペは5分くらいで終わり部屋に帰ると念願のエンシュアが待っていた。腹が満たされると気持ちも落ち着き、その夜はよく眠れた。その頃の胃ろうの管は尿を取る管を代用していて腹の上には20センチあまりの管が出ていたため、体位交換をする度ブラブラして痛かったのを覚えている。管の先端の方は45度に切っておかないと、薬などよく詰まる。在宅に入ってからの胃ろう交換はバルーンの水を抜いて差し替えるだけの簡単なもので、妻がしていましたが、それでも怖いと言っていました。主治医の先生が「僕はよう換えん」と言うので仕方なかったのです。この頃のアクシデントは水の入ったバルーンがよく裂けていたことで、横にいても聞こえるくらいの音でした。10年前までそれを使っていました。気管の方はあまりトラブルも無かったのですが、胃ろうには随分泣かされました。

上の図は、私の使っている胃ろうバルーンカテーテル(スムーズボタン)です

胃ろう造設して4年くいはトラブルばかりがありました。尿管から胃ろうバルーンカテーテルに換えましたが、12年前くらいから肉芽が出はじめました。1年から2年毎にレーザーで焼き取りするのも12回はいいかと思いますが、私みたいに67回切ると皮膚が出来る間もなく、皮膚も薄くなると思います。若いときなら5分も間をとると、皮膚の収縮が早く入れるのに難儀するそうです。肉芽が出るたび痛くなり、毎年取るたびに痛みが増してきました。そのうちチューブを太くしたら2年くらいは痛みがなかったのですが、体位交換や動くたびに穴が大きくなるのでしよう。また以前のようになりました。和歌山の友達がボタン式の胃ろうをしていましたので、メールで聞くと、調子が悪く横にまた穴を開けたそうで、「痛くて死ぬかと思った」と気絶した事もあったようで、胃ろうの怖さをこんこんと書いてきてくれました。私もこんなに痛いのなら、横に穴を開けようと思っていただけに大きなショックを受けました。私は2年前に肉芽を焼きに行ったが、焼け火箸で焼かれるような痛みがあり、病院から帰りの車の中でヘルパーさんに「ガーゼを除けて」と言ってガーゼを除けたら少し落ち着きましたが、その夜の痛かったこと、今思い出しても寒気がする程です。夜中の12時過ぎにチクチク痛みだし、また来たなと思いつつ呼ぶことも出来ずに我慢していましたが、段々痛みが激しくなってきました。そんな時は昔痛い目に遭ったことを思い出すものです。小学校4年の時薪を取って帰り、厚カマを杭に刺すつもりが、滑って左手の人差し指を落とした。皮だけでブラブラしていたので、元に戻して右手で押さえ、白味噌の瓶から味噌を取ってきて、団子にしたまま味噌で指を押さえ、 そのままモーター小屋まで走ったものの途中血がポタポタ落ちながら、小さな小屋に入った。中は藁を天井まで入れてあり子供しか入ることが出来なかた。      

そのまま藁に潜り、「指よくっついてくれ」と願いつつ、気が付いたら外は明るくなっていました。そのころはカマやナタで切ったら、直ぐに付けたらくっつくという話をよく聞いていたが、目の前で親指を落とした人が、反対にくっつけていたので、医者に切り取って貰って義指になったと聞いた事もあります。あの時も痛かったが中学になり、駅伝や長距離だけでは退屈で、棒高跳びの練習をしていたら、助走が悪く反対に戻ってきて、手首の骨を2本とも折った。もっと真面目にやれば良かったのに、半分ふざけてやっていたら痛い目に遭いました。そんなことを思い出しながらいたら、4時になり意識がもうろうとしたまま、それからは痛みを堪えるだけで記憶になかった。胃ろうといえども軽く見てはいけないことを、イヤと言うほど知らされました。しかし胃ろうのトラブルは無いという人もいます。                                      

いつもはテラコートリル軟膏を塗るのに、その日はリンデロンVG軟膏を塗ったらしい。リンデロンVG軟膏は簡単に塗るものではないと思いました。

そんな痛い目に遭ったから他の病院に相談したら、翌日すぐに来てくれました。その医師は胃ろうに詳しく「肉芽は切ると穴が大きくなるだけです」と言われ胃ろうのことを詳しく話してくれました。「肉芽は生きている間次から次に出来るので肉芽が出来るたびに焼いていたら、肉芽の周りの肉は全部焼いてしまうことになりますよ」と言われ、考えてみれば私のような素人でも分かることだと思いました。

私の肉芽の対処方法は、トロミ剤(市販品)を入れて漏れを無くすことにより治しました。私は朝、エンシュア500ccとお茶400ccを飲んでいまが、夕方3時にも同じ量を飲んでいます。1日2回のエンシュアとお茶にトロミ剤をスプーンでそれぞれ2杯ずつ入れて注射器で入れました。早く入れても大丈夫です。(トロミは1日8杯です)この方法で漏れが収まり、すぐに痛みは無くなりました。その後10日くらいトロミ剤を半分の量にして入れ、(朝は以前のようにボトルで入れて、夕方はトロミ剤を入れる)続けて10日くらいは、トロミ剤の量を半分の量に調整(お茶だけトロミ剤を入れる)しながら減らして入れました。後10日くらいすると胃液の漏れは完全に止まりますが、止まらなかったらトロミ剤を2杯、止まるまで続けて下さい。調整が必要なのは、便の回数が多くなるからです。

胃ろうの周りは洗浄をしていつも清潔にするべきです。異物があるときは、綿棒で血が出ても取り除いて下さい。血が出ても取り除くのは、肉芽を防ぐためです。綿棒で擦っても、見ているほど本人は、痛みはありません。私の場合朝方に胃ろうが痛くなることもありますが、バルーンの先の出ている部分が、空腹になると当たることもあります。食事を入れるか、体の位置を換えると治ることもありますが、滅多にないことです。

またこんなこともありました、詳しかった先生なのに、私の胃ろうを見て周りが赤くなっていたので、幅5センチ長さ7センチくらいのテープを10枚くらい貼り付けられて、私もされるがままに見ていましたが、その夜の痛かった事、夜明けを待って全部剥がして貰い、痕を見ると胃ろうの周りは汗だらけで、ピリピリするやら痛いやらで参りました。それから数日は胃ろうのことは忘れて周りの皮膚に悩みました。日光浴をすると少し落ち着きました。

私が何時も言っていることは、医者の意見は6割、自分の判断は3割、運は1割と思うと言うことです。医者が気管切開して、胃ろうも造設していたら10割だと思いますが、同じ人間でも「痛いと言っても」痛さの度合いは分かりませんよね。


所詮自分の体は誰にも分かりませんよ。自分自身で把握して知っておくものです。人間は健常者も障害者も皆、人に生かされています。人間は最後まで夢を捨ててはダメです。

 

 

写真は現在の私の胃ろうです。